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7-18 沖縄の夜 2

Aвтор: 結城 芙由奈
last update Последнее обновление: 2025-04-13 08:27:17
それから2時間後——

「朱莉さん、朱莉さん。大丈夫かい?」

琢磨は壁に寄りかかり、うつらうつらしている朱莉に声をかけた。

「は? はい……? だ、大丈夫です……」

朱莉はすっかり酔ってしまっていた。

(まさか、チューハイ1杯とカクテル1杯で酔ってしまうとは……まるでザルのような明日香ちゃんとは大違いだな……)

琢磨は会計を済ませると、朱莉を何とか立たせ、背中に背負うと居酒屋を後にした。通行人たちからはジロジロ妙な目で見られたが、琢磨は気にも留めなかった。

(どうせ、ここは沖縄だ。俺の知り合いだっていないんだし……構うものか)

朱莉を背負ったままタクシー乗り場に行ってみると、丁度運がいい事に客待ちのタクシーが1台停車していた。そこで琢磨は朱莉を抱えるように乗り込むと運転手に朱莉が宿泊中のホテルの名を告げた。

「……」

 自分の肩に朱莉をもたれさせるように座らせ、琢磨は夜の沖縄の町を眺めていた。国際通りには大勢の観光客と思しき人々が沢山歩いている。それを見ながら琢磨は思った。

(これから朱莉さんは何カ月も沖縄で1人暮らしをすることになるんだ……。出来れば俺も朱莉さんの傍にいてやりたいけど……)

ちらりと自分の肩に寄りかかって眠っている朱莉を見つめた。

(だけど、朱莉さんが望んでいるのは俺じゃない……)

それを考えると琢磨の胸はわけの分からない痛みに襲われるのだった――

「ありがとうございます」

琢磨はタクシーを降りるとお金を支払い、朱莉を背負ったまま宿泊しているホテルのフロントに行った。

そこで事情を話し、宿泊している部屋の鍵を預かると琢磨は朱莉のいる部屋へ足を向けた。

「……ここが朱莉さんの宿泊する部屋か……」

そこそこのレベルのホテルなのかもしれないが、自分の宿泊している部屋と見比べると罪悪感を抱く。

「俺はあんなすごい部屋に宿泊しているのに、朱莉さんは……」

とりあえず、朱莉を寝かせなければと思い、ベッドの布団をめくると、そこに朱莉を横たえた。それでも朱莉はちっとも起きる気配は無い。普段大人びて見える朱莉だが、こうして眠っている姿はまるで子供の様にも見える。

「フフ……可愛らしいな」

琢磨は次の瞬間驚いた。

「……一体俺は何を……?」

その直後、朱莉がうなり始めた。

「う~ん……」

「朱莉さん? 目が覚めたのか?」

しかし朱里からは返事が無いが、何か呟いている。琢
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     しかし飯塚の願いもむなしく、臼井と一緒にいた男性が飯塚に興味を示した。「へえ~君、咲良ちゃんて言うんだ。可愛い名前だね。君にぴったりだ」男は嘗め回すような視線で飯塚をジロジロと見つめる。「ちょ、ちょっと……何してるの? 勇さん」臼井は男の名を呼ぶ。一方の飯塚は男のぶしつけな視線が嫌でたまらなかった。服役する前の飯塚なら男が自分を見つめて来る視線を心地よいと感じていたかもしてないが、3年間刑に服した今の飯塚は、たとえそれが子供の視線だろうと人の視線が嫌でたまらなくなっていたのだ。「あの……私、それじゃ帰ります」臼井と勇という男に背を向けて立ち去ろうとすると、突然勇が声をかけてきた。「ねえ、咲良ちゃん」その言葉に飯塚はピタリと足を止めると振り向いた。「……人前で名前を呼ぶの、やめていただけますか?」「そう? 名前呼ばれるの嫌なんだ? それよりさ、ちょっと3人でお茶でも飲んでいこうよ」どうやら勇は飯塚にすっかり興味をもってしまったようだ。「いいえ、結構です」はっきり断ると臼井も会話に加わってきた。「そうよ、飯塚さんは用事があるんだから。大体今日はこれから映画を観に行くんでしょう? ほら、チケットだって用意してあるのよ?」臼井のその様子に飯塚はぴんときた。恐らく入れ込んでいるのは臼井の方で、男はさほど彼女に対しては興味を持っていない……と言うか、そもそも付き合っているという感覚すら持ち合わせていないのではないだろうかと。すると案の定、勇は言った。「映画に行きたければお前1人で行ってくればいいだろう? 俺は咲良ちゃんの方が興味ある」そして飯塚をじっと見つめる。「な? 30分でいいからさ? 一緒にコーヒー飲もうよ。それだけでいいからさ」すると臼井も説得してきた。「ええ、そうね。30分だけ一緒にコーヒーを飲みましょう? 奢ってあげるからっ! 勿論……断るはずないわよね?」その目は飯塚にとってはこう語っているように見えた。もし言うことを聞かなければ、刑務所に入っていたことをばらしてやる……と。(駄目だ……きっと断れば臼井さんは私が元受刑者だったってことをばらすかもしれな!)「わ、分かりました。30分だけ……なら……」飯塚は観念するしかなかった――****――10分後飯塚は半ば無理やりカフェに連れてこられていた。3人で丸テ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   第2章 京極正人 12

    「あ、あの……つまり専属秘書というのは?」飯塚はただの家政婦でいるのは嫌だった。すると京極はまるで飯塚の気持ちを汲んでいるかのように言う。「ええ、その名の通り家事以外にも僕の仕事の手伝いをお願いしたいと思っています。実は今僕が新しく作ったIT企業はベトナムで立ち上げたんですよ。本社は今のところベトナムですが、僕は日本に戻ってきたのでこちらで日本の企業を立ち上げて本社にしたうえでベトナムは支社に変更しようと思っていたところです。今現在日本に社員がいないので近々求人を募集しようかと思っていたんです。飯塚さんは日本の社員1人目ということでいかかでしょうか?」「私が……京極さんの企業の日本での初めての社員……?」それは夢のような提案だった。京極から直々の雇用なら履歴書も必要無い。何より当然自分の前科を知っている。そのうえでの採用であり、衣食住も提供してくれるなど、これほど恵まれたことは無い。だが……。「いいんですか? 本当に私みたいな前科者を雇って」すると突然京極が飯塚の両肩に手を置いてきた。「飯塚さん……」京極は今まで一度も聞いたことの無い低い声で飯塚の名を呼んだ。「な、何ですか……?」飯塚は京極の突然の態度に驚き、声を震わせ……その時、初めて京極の険しい表情を見た。しかし、その目はどこか悲し気にも見えた。(な、何て顔で私のこと見るのよ……!)すると強い口調で京極が言った。「飯塚さん、いいですか? もうむやみやたらに自分のことを前科者だとか卑下するような言い方はしないで下さい! 貴女は刑期を全うしたのです。普通の人たちと何ら変わりありません。もっと……自分に自信を持って、堂々と振舞っていればいいんです!」「わ、わかりました……」あまりにも今迄とは態度が豹変した京極を見て、飯塚は焦ったがそれでもこれでようやく自分は一社会人として、仕事を持てたのだと言うことを改めて実感するのだった。「では、飯塚さん。早速僕と雇用契約を結びましょう。今日中に僕が契約書の書類を作ります。出来上がったら飯塚さんに確認して貰って問題が無ければ雇用契約を結ぶことにしましょう」「はい、宜しくお願いします」飯塚は頭を下げた。そしてその後、2人は出来上がったカレーを食べ……飯塚が片づけをしている間に京極は契約書を作成し、その後2人で見直し、この日2人は社長と専属秘書と

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